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FRONT > SPECIAL CONTRIBUTION > 『ジプシー・ソウル』

『ジプシー・ソウル』

美咲歌 芽句

新宿のジャズ・ヴィレッジで
どろりと苦いコーヒーを飲みながら
わたしは『バード』*(注)を聴いていた
つい今しがた会社を辞めてきたばかり
ほかに今やるべきことがある
わたしはどうしてもキリギリスで
アリにはなれないと悟ったんだ
青春も人生もきっと瞬きの間に過ぎてゆく
貴重な時間を 好きでもない事に費やすことはできない
それに溢れるエネルギーと
わたしの若さが定着を否定した

あのビートニクなたまり場で
わたしは退職届と引き替えに
落書きだらけの壁に人権宣言を書きなぐり
ボードレールの詩集の片隅に
その自由の契約書にサインした
立会人はわたしの中の何者か…
記念すべき日 初雪が舞い降りた

不器用で自分を偽れないわたし
偽りはいつでもわたしを病気にし発狂させる
わたしはそれから逃れるために
この唯物文明社会のマシーンに組み込まれる
一個の歯車となることを拒否した
そうよ わたしは生まれながらのジプシーなのよ

それにしても目の前に広がる未知の荒野だ
不安と心細さが女々しく寄り添ってくる
自由と孤独はコインの裏表
雲は低くたれ込めて前途多難を予感させる
それでもわたしは前進すると決めたんだ
わたしの中の何者かがする
「勇気を出して行け オレがついている」

世界を見透かす目と 反抗の精神
そして充分な怒りと悲しみのために
ジプシー・ソウルはさまよう
否応なしに順応を強いる
巨大な力を持ったモンスターによって
人間の人間らしい営みと
魂の尊厳が踏みにじられることに抗い

ああ ジャズのなかで発芽し、ロックのなかで育ってきた
わたしの精神よ
今やわたしの存在の証となった
ジプシー・ソウルよ
それが宿命というのなら どこへでも行こう
音楽と詩をたずさえて
人間は懲りない生きもの
最終破壊を見るまでは…
この先は荒野も荒野
そこはワルキューレの戦場
お嬢さんよ
わたしたちはこれから地獄を通り過ぎるんだ
ハイヒールを脱ぎなさい
そしてマシンガンを磨いて身支度するんだ
顔中を黒く塗りたくって 覚悟を決めて行くんだ
たぶん焦げ付いたピザのように焼けただれた街と
累々たる死体を踏み越えて行くことになるだろう
ごらん あの山の頂きにはブッダが座している
KILLA BUDDHA・・・私はその言葉が気に入った

環状7号線をぐるりと巡る光の帯よ
渋滞してノロノロと進む車の 赤いテイルランプの列は 
お経をあげながら 僧侶が繰る108の数珠
死という再生の未来に向かって
時速20キロでゆっくりとアクセルを踏み続けるわたしたち
街道沿いのファミリー・レストランの
白々しくもまばゆい輝きよ
そのあらかじめ失われた団らんと聖家族の幻影よ
お子さまランチに立てられた日の丸の旗よ
万歳!
その紅白のめでたい国で
ゆっくりと腐らされてゆく魂よ
その善良愚鈍な市民たちの魂よ
彼らが放つ淡黄色の
弱々しいオーラの間をすり抜けながら
ジプシー・ソウルは行く
魂の領土を求めて
誇りと孤独を抱いて
ただひたすら人間性を失うまいと
ボロをまとい荒涼天使たちは行く
愚か者のように…
メトロポリスのイルミネーションの下
そのはるか遠くきらめく
星々のダイナモの下

*(注)バード:チャーリー・パーカーのアルバム『Bird』

PHOTOGRAPHED BY MAKI FUJIMOTO

  • Special Contribution:

  • 『ジプシー・ソウル』
  • 公開詰問 すなおに すなおに
  • <Keep On Walking>
  • 「人々を奴隷にする全てのものをぶち壊せ!・・・・今もなお生き続けるMC5の革命的スピリット」
  • 1984-2005
  • ふりあげたこぶしを静かに下げるちから
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