HIPSTER'S JOURNEY -from TOKYO to LA-


T.H.C.がオープンしてちょうど1年ほどになるが、オープンの日からしばらくの間、出入口付近に飾られていた木村氏のバイクは、ショップのシンボルのひとつになっていたといっても過言ではない。このバイクを観るためにわざわざ遠方から訪れる方もいたほどで、その圧倒的な存在感で、フロアの隅にあってもなお静かに強く主張していた。
本展は、その木村氏と周辺のアーティストたちによる「HIPSTER'S JOURNEY」――ひとつの旅の記録であった。サブタイトル「from TOKYO to LA」のとおり、木村氏は自らの活動拠点を、東京からロサンゼルスに移し、現在は海の向こうで制作を行っている。そして、そこに世界中からオーダーが集まる。バイクにまつわる既成概念を打ち破り、ビルダーでありアーティストであるという道への挑戦の旅。そこに至るまでの、活動の奇跡としての旅。そして実際に道なき道を延々と走る、バイカースピリッツを持ち備えた、新たな世界への旅。それらを総称して、本展は「JOURNEY」と名づけられた。
1階から2階へと上る階段には、ピンストライプ職人MAKOTO氏によるペイントが飾られている。車やバイクのペイントを主に手がけるMAKOTO氏が、木村氏のバイクを描いたものだ。そして部屋に入ると、壁には木村氏本人によるスケッチのほか、伊藤陽子氏による銅版画、ZAP氏による写真、そして奥に鈴木賢悟氏による絵。作家の方々はすべて木村氏の周辺の人々である。そして空間の中央で圧倒的な存在感を放っているのが、木村氏のバイクである。
会場の中央に据えられた一台は、ホンダが生んだ世界のベストセラー、カブのエンジンを積んでいる。カブの登場は、それまで一部の人間が乗る危険なものとされていたバイクのイメージを、一般大衆に親しまれる安全なものという風に変えたが、木村氏のこの作品は、その世紀の名作カブに対するリスペクトであると同時に、本来バイクは安全な乗り物などではないというアンチテーゼの意味も込められている。
「働かざる労働者」――すっかり「ソバ屋の配達」のバイク、労働者のバイクというイメージがついてしまったカブを、全く別のバイクへと昇華させたのである。そして会場の隅では、それらのパーツをリメイクして制作されたオブジェが、異様な存在感を放つ。これもまた、カスタムビルダーに対するアンチテーゼなのであろうか?

また関連イベントとして、「Bike Talk for Motorheads」と題されたトークショーが9月30日に開催された。相手役に迎えられた元HOT BIKE編集長の池田伸氏と共に、木村氏が日本からアメリカへ挑戦し渡っていった軌跡、今後の展望などについて語った。小さな会場には木村氏のバイクを愛する50人ほどの人々が詰め掛け、2人の熱いトークに熱心に耳を傾けていた。
木村氏のバイクは「日本製」である、という。それはたとえロサンゼルスで制作していても、海外の部品しか使用していなくても、変わることのない精神である。日本人である木村氏が、自らの日本人としての感性でカスタムしたバイクには、日本の「血」のようなものが流れ込むのだ。ある一台は、日本の150年前ほど昔の蔵に使われていた扉と一緒にディスプレイされていた。もちろんそのころに今のようなバイクは存在しないはずであるが、しかしそこには全く違和感がない。そういった意味で本展は、いかに木村氏のバイクが日本のものであり、そして、それらがいかに世界で受け入れられているか、ということを示すエキシビションであったと言えよう。木村氏の新たな世界への「旅」は終わらない。
文:内沼晋太郎
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