BOB MARLEY Icon
BOB MARLEY Icon PHOTO EXHIBITION by DENNIS MORRIS

「俺が今まで歌ってきたのは、全て解放の歌だ。この自由の歌を、一緒に歌ってくれないか?なぜなら、俺が歌ってきたのは、全て救いの歌なんだ。救いの歌だけなんだ。」
これは、ボブ・マーリーの生前、最後に発表されたアルバム「アップライジング」のラスト・ナンバー、「リデンプション・ソング」の一節である。
ボブ・マーリー没後25周年に当たる今年、未だ止む事ない彼へのリスペクトと追悼の念から発足した「BOB MARLEY Icon PROJECT」の一環として、この写真展は開催された。ボブ自身は言うに及ばないが、これらは全て、写真家 デニス・モリスという存在があってこそ実現し得たものであるという事を、ここで一言言っておきたい。
デニス・モリスは、若くして写真家としての道を歩み始めた人物で、彼の撮った写真(偶然に遭遇したPLOのデモの様子を収めた1枚)が、デイリー・ミラー誌の表紙を飾ったのは、彼がわずか11歳の時の事。そんな彼がボブと出会ったのは、BOB MARLEY & THE WAILERS初のUKツアーでの事だった。ボブは、カメラを持って彼を待っているまだ10代のデニス少年に興味を持ち、残りのツアーに同行して写真を撮る事を依頼した。デニスは荷物をまとめ、家出同然でそのままバスに飛び乗り、そこから彼の本格的な写真家としてのキャリアが始まった。デニスが14歳の時の出来事である。
その出会いからの7年間、ボブと寝食を共にし、語り合い、写真家と被写体という関係を超えた2人の記録が、今回の写真展という訳だ。いや、記録と言ってしまってはあまりに味気ない。なぜならそれは、ポシティブ・ヴァイヴに溢れた、レゲエの神ではなく「人間」ボブ・マーリーの素顔を、今なお圧倒的な存在感をそのままに写し出した、ボブの「呼吸」とでも言うべき写真展だったからである。ファインダー越しにデニスを見つめるボブの眼差しが、写真を通して僕たちにも語りかけてくる様であった。
写真展会期中の5月13日、僕たちは幸運にも、デニス自身から全ての作品への、そしてボブへの思いを聞く事が出来るという機会に接する事が出来た。立ち見も出る程の熱気の中で話をするデニスは、シャッターを切ったその瞬間の雰囲気を、ついさっき起こった出来事の様に臨場感たっぷりに(それは、ボブが故人である事を忘れてしまいそうな程に)話す熱量と、戻らぬ輝かしい過去の追憶を辿る様な遠い眼差しの入り混じった、独特の雰囲気を湛えていて、それがとても印象に残っている。
大のサッカー好きとして知られるボブが卓球に興じている、珍しい写真(ボブの曲名から取って、「ジャミング」というタイトルが付けられている)から始まり、「デニス、お前に自由を見せてやるよ!」と言って両手を広げ、ドレッド・ロックスを掴み、飛び跳ねてみせた瞬間に、夢中でシャッターを切ったという、同じくボブの曲名からタイトルが取られた「ライヴリー・アップ・ユアセルフ」(この後ボブは、「自由なんて、自分の気持ち次第さ。こんな風にね。」とデニスに言ったらしい。格好良すぎる)など、デニスならではと言える、ボブの知られざるプライベート・ショットの応酬に、僕は圧倒されっ放しだった。しかも、その眼差しの対象者であり、その瞬間を収めた人間が、まさに今目の前にいるのだと思うと、何とも言ない興奮を覚えた。しかし、ボブを知らない僕にとって、その時はまだ、それらの写真もあくまで「神」の一側面としか感じる事が出来ず、「人間」ボブ・マーリーを写し出した写真などと口にする事は到底出来なかった。それ程までに、彼の存在感は圧倒的だった。
そして、最後の1枚。ボブの晩年の姿を写した、デニス自身にとって最後のボブの写真の前に立った。病魔に冒され、憔悴しきったボブの表情からは、あの神々しいまでのオーラこそ消え去ってはいたものの、なお悠然と静かに佇んでいた。デニスは言った、「この時ボブは、(この時は未発表であった)リデンプション・ソングを歌っていたんだ」と。僕は言い様なく胸につまるものを感じながら、同時に不思議と安らかな気持ちに包まれていた。それは、死に直面した人間の脆弱さを見てとか、そういう事ではない。そこに、終わらない戦いの果てに、安息の地へと旅立とうとしている1人のバッファロー・ソルジャーの横顔を見た気がしたからである。僕はその時初めて、「人間」ボブの姿を、その眼差しを感じる事が出来た様な気がした。そして、拙い英語と共に握手を求めた僕を、デニスは「全て分かった」といった風な笑顔で迎えてくれた。
その晩、僕は改めて「リデンプション・ソング」を聞いてみた。
「救いの歌」と名付けられたこの曲を、晩年のボブはどんな思いで歌っていたのだろう。
文・功刀 新平
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