TOKYO HIPSTERS SCHOOL
TOKYO HIPSTERS SCHOOL / A series of Lectures on Che Guevara by Jugatsu Toi
トーキョー・ヒップスターズ・スクール / 戸井十月の裏原塾 Vol.1 連続講座「チェ・ゲバラという名の希望」

THCの1階中央にある柱には、赤い背景の、一枚の肖像画が飾ってある。特にこの原宿界隈を歩く人々にとって、その肖像がチェ・ゲバラという人物であることを言い当てることは、さほど難しいことではない。ゲバラをプリントしたTシャツがこの街に溢れたのも、彼のバイクでの旅を描いた「モーターサイクル・ダイアリーズ」が映画化されたのも、つい数年前のことだからだ。だからTHCを訪れる人々の中には、いつしかファッション・アイコンとなってしまったこのゲバラの肖像画を見て「今さらゲバラ?」などと口にしてしまう人が少なからず存在する。しかし、彼らはゲバラについて、どれだけのことを知っているだろうか。ゲバラが一時の流行として消費されるような人物ではなく、永遠に語り継がれ、その生涯について考えるべき人物なのだということ。その知名度と比較すると、そのことは恐ろしいほど知られていないのではないか。
2006年1月23日、27日、30日、そして2月3日の、計4回。記念すべき「トーキョー・ヒップスターズ・スクール」の第一弾が行われた。タイトルは「チェ・ゲバラという名の希望」。講師の戸井十月氏は作家で、映画監督、ドキュメンタリーディレクターとしての顔も持つ。1997年より五大陸走破の旅を始め、2005年、4大陸目の南米大陸を一周。ゲバラの生涯を描いたノンフィクション・ノベル『チェ・ゲバラの遥かな旅』や、ゲバラの盟友で現在もキューバの最高責任者をつとめるカストロの評伝『カストロ、銅像なき権力者』などの著者であり、このテーマについて語るのに日本で右に出るものはまずいないであろう(「裏原塾」というネーミングも、なんとも皮肉めいていて小気味いい)。
「旅人、ゲバラ」と名付けられた第1回では、ゲバラの生涯を辿った。幼少の頃から病気と闘いながら育ち、引越しを重ねるうちに青年時代の放浪癖を身に付けた、ゲバラという人間の骨格。そして第2回の「ゲバラを変えた人々」では、革命家としてのゲバラが育つに至るまでの、人々との出会いを紹介した。若い頃に読んだチリの詩人ネルーダ、一緒に旅をした6歳年上のグラナード、マルクス主義を教えた女性イルダ、ゲバラを「チェ」と名付けたキューバ人のニコ、そして誰より、共に戦ったカストロとカミーロ。第3回の「キューバという希望」では、その中でも最大の影響を与えたカストロを中心に、ゲバラがカストロと共に目指し、そして現在に至るキューバについて話した。そして「命を懸けて捜したもの」と題された第4回では、彼らが目指した理想の世界はまだ実現していない、全くもって終わっていないということを、ゲバラの人間性にあらためて迫りながら、訴えた。
この短い文章の中でゲバラという人物を紹介しようとすることは、この全4回の講義を聴いてしまった後ではあまりに浅はか過ぎて、できない。しかしただひとつだけ触れるとするならば、4回目の講義の最後の最後で、戸井氏が話したことだろう。彼は講義の総括に「人を愛そう。ぼくたちにできることは、そう思うことです」と言った。ゲバラの最大の才能は、人を愛する才能であった。医者であり、戦士であり、政治家であり、詩人であり写真も撮り絵も描いたゲバラが、それらに共通して持っていたのは、全世界の人々を思う愛であったと、戸井氏はいう。そしてこう付け加えた。「いま政治をやっている人は、人を愛せない人ばかりのような気がしませんか。だからまずはぼくたちが、人を愛そう、と思うところからはじめるべきなのです」。
全4回の講義が終わったあと、参加者全てが一言ずつ感想を述べた。学生から出版関係やファッション関係の社会人まで、男女もちょうど同じくらい、幅広い年齢の方が参加していたことに気づく。多くの参加者が口にしていたのは「世界のことを考えるようになった」ということ。目の前のことしか考えていなかった自分、理想というものを忘れていた自分。それぞれが、それぞれ今自分のやっている仕事のことなどを述べながら、最後にたどり着くのはそのことだった。
決して膨大な人数というわけではない。何か思想的なバックグラウンドをもった団体というわけでは当然なく、それどころか、共通の目的さえ持っていない。けれど、だからこそ、ファッションの街原宿に位置するこの場所で、ただゲバラの生涯を知ろうというこのような集まりが成立したことは、なんとも不思議ながら、とても意義深いことだ。第一歩は、ぼくらの小さな心の中からしかスタートしない。そこでは、ゲバラは、死なない。「ゲバラがこの講座を見たら、いったいどう思うだろう」と、戸井氏は笑いながら言った。普段は1Fにある肖像画のゲバラは、講座の間はいつも、戸井氏の背後に飾ってあった。
文・内沼晋太郎
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