Recollections in the blanket

幼少時の記憶、というとき、夜中ひとりで目が覚めた時の心細さや、一人でトイレに行くまでの道のりの薄気味悪さなどが思い出される人は、かなりの数いるのではないだろうか。天井のしみがおばけのように動き出しそうに見えたり、何気なく置いてある布の向こうに何かがいるような気がしたり――そんな妄想に一度とりつかれると、それらはなかなか頭から離れなかった。
T.H.C.では2007年5月2日から5月27日まで、デザインとアートの境界で、あるいはそれを飛び越えて独自の活動をつづけるアラキミドリ氏の展覧会「recollections in the blanket」が開催された。テーマは幼少期の記憶を原点とした「記憶とその先」。会場の入り口にはこの英字タイトルの下に、後から書き加えられたと思われる本人の手書きで「ブランケットの記憶」と書かれている。アラキ氏にとって「ブランケット」は、自分の中にある「記憶」「妄想」と、常に関係してきた象徴的なものだという。
入るとまず正面に大きな絵が飾られている。白い背景に、中央に木と、鳥と、家。かわいらしいようで、どこか薄気味悪い夢のような絵。その左の壁には、また手書きの文字でこう書かれている。「わたしが作品を作るとき、/そこには<記憶の残骸>が寄り添う。/幼い時からわたしの友人以上に/つきあっているブランケットは/わたしの匂いと共に/ある記憶、とらわれた妄想を/染み込ませ、覆い被ぶせ/闇の中へ/ひゅるると、ひゅるると」。

天井を見ると、本展のメインのひとつである、新作の照明が吊るされている。こちらも一見かわいらしい鳥かごのように見える照明だが、その一面に型が巧妙に仕掛けられており、点灯するとお化けのような影が天井に映し出されるデザインになっている。部屋には布が垂れ下がっている。置いてある透明の座面の椅子に、小さな足がのぞいている塊を包み込んだ白い布が引っ掛けられている。子供時代のアラキ氏本人だろうか。壁には、こうある。「9歳の一時期に怖い体験が続いたことがあった。/寝る前に目覚ましを7時に設定して眠りにつくのだが、/突然アラームが鳴り出し、ハッと起こされる。/時計の針は、いつも午前3時前後を射している。そのけたたましい音が鳴りやむまでは/ただ天井を見つめることしかできない/その後、シーンという音さえも聞こえない静寂な闇に宇宙でただひとりの生存者であるかのような気分になり、身体が1ミリもタオルケットからはみださないように、神様に祈るような、妙な恐怖感が襲うのだ」。どこかキッチュでどこかホラーな音楽が、会場にループしている。

手前の壁には「女の子が、ケーキを『おいしい』ではなくて『かわいい』と言っているのがすごく気になってしまった」ことを発端につくられた、ホンマタカシ撮影によるお菓子の写真のシリーズが展示されている。その横では、セーヌ河岸の窓で行われた映像インスタレーションを、さらに映像に撮ったものが、会場のガラス窓に映されている。また今回の展覧会を記念してアラキ氏自らデザインされた、T.H.C.オリジナルのカットソーも展示販売。グラフィックデザイン科を卒業し、ファッション/インテリア誌の編集者を経て、アーティストに転向したというアラキ氏。その唯一無二の世界観と、それをアウトプットする手段の幅広さが伺える展覧会であった。
文:内沼晋太郎
Recollections in the blanket | an exhibition by Midori Araki at TOKYO HIPSTERS CLUB
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