戸井 十月 南米大陸一周展

赤いバイクが、会場の中央に置かれている。展覧会のDMに使われている写真に写っていたのと、同じものだ。快晴の空と、遠くに聳え立つ山々。巨大な手の形をした石像と、この赤いバイク、そしてその間に佇むライダー。印象的なこの写真に、小さく写っているこのライダーこそが、作家・戸井十月氏である。
戸井十月氏は32歳でバイクの免許を取得して以来、世界中をバイクで走破する行動派の作家であり、それらの旅に関する著作を数多く発表している。そしてその一方で『チェ・ゲバラの遥かな旅』(集英社文庫)や『カストロ、銅像なき権力者』(新潮社)など、ゲバラやカストロに関する著作も数多い。その幅広い知識と経験を生かし、T.H.C.でもこれまでに「 TOKYO HIPSTERS SCHOOL 戸井十月の裏原塾 Vol.1 チェ・ゲバラという名の希望」と題された連続講義の講師や、「60年代のキューバ」展での近藤彰利氏との対談相手などとして参加している。

その戸井十月氏が十年の月日をかけて現在まさに実行中なのが、バイクによる「五大陸走破行」である。1997年には北米大陸一周の旅を始めたとき、戸井氏の年齢は48歳。以降1998年にオーストラリア大陸、2001年にアフリカ大陸、そして2005年に南米大陸を、それぞれ走破した。五大陸のうちの四大陸目にあたるその二年前の旅、『遥かなるゲバラの大地』(新潮社)という同名の書籍にもなった2005年の旅の奇跡を、できるだけリアルに展示しようと試みられたのが本展である。

壁には各地で戸井氏が撮影してきた写真のほか、現地の地図やポスターが何枚も貼られている。そして天井近くに吊るされているのはTシャツ。主にゲバラをプリントしたもので、土産物としてそれぞれの土地で販売していたものを買い集めたものだ。そして会場中央、赤いバイクが存在感を放っているのは冒頭に記した通りだが、その横に並べられたガラスケースには、お札からピンバッチ、身分証から各種証明書、ライトなどのトラベルギアまで、ありとあらゆる旅のグッズが並べられている。そして会場脇にはバイクに乗っていたときのウェア。旅で集められたもの、使われたものがそのままそっくり展示してあり、見ていて飽きない。
「もっと現実の世界を見たい、生身の人間たちと出会いたい、そのための旅がしたい……。未知の世界と出会えば出会うほど、もっと知らない世界があることを知らされる。だから、旅をすればするほど旅への想いは募ってゆく。旅とは、そういうものだ。(中略)悪戦苦闘の挙げ句にささやかな、しかし確かな真実と希望とに出会う体験、それが旅だと私は思っている。それを信じて、私は私の旅を続けよう。たとえそれが壮大な無駄であったとしても、私にはそれを避けて通ることができない。旅に終りはないのだ。」壁に掲げられた戸井氏のテキストは、このように終わっている。戸井氏の旅は、今なお続いているのである。
なお会期中には「TOKYO HIPSTERS SCHOOL 戸井十月の裏原塾 Vol.2」と題して、今回は戸井氏に旅について語っていただく単発のトークショーを行った。その内容はこちらに掲載されているので、参照していただきたい。
文:内沼晋太郎
Jugatsu Toi, Travels through South America 〜CHE GUEVARA'S FAR-OFF EARTH〜
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